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福島家庭裁判所 昭和58年(家)17号 審判 1983年1月24日

申立人 加藤孝子

相手方 加藤俶夫

主文

相手方は申立人に対し婚姻費用として

ア  昭和五七年八月三一日限り三〇、四八六円

イ  同年九月以降毎月末日限り四九、七四一円

を支払え。

理由

(一)  婚姻史

1  申立人と相手方は昭和四〇年三月六日婚姻(届出同年四月二日)、その間に長女美加(昭和四三年八月二四日生)二女有里(同四四年一一月四日生)がある。申立人らは婚姻当初京都市近郊に居住していたが、同四三年暮頃から相手方は勤務の関係で福島市に単身赴任し、同四四年一月には申立人も同市に転居して同市○○で同居生活を始めた。ところで相手方は同四七年(株)○○○○○なる新会社を設立してその代表取締役になつたが、その経営がうまく行かず同五四年一月に倒産した。そこで同年二月申立人はひとまず子供を連れて京都の実家に移り戻り別居生活になつたもののそのまま現在に至つた。

2  相手方に申立人以外の女性との関係がいつ頃から、どのようにして生じたかは明らかではない。しかし、申立人が福島市に転居する前にすでにこの種の争いが夫婦間であつたようであり、また昭和四八年には相手方は当裁判所に申立人を相手として離婚調停の申立をなし(同年一一月二六日不成立終了)、また現在相手方の肩書住居で、土井洋子なる女性と同棲関係にある。

(二)  双方の家庭環境、勤務、収入、負債状況

1  申立人は現在肩書住所で申立人の父所正三(七一歳年金生活)、妹(塗装会社勤務)、長女美加(中学二年生)、二女有里(同一年生)とともに生活している。

申立人は府立○高校の非常勤職員として勤務しているが、その勤務は一日四時間、年間九ヶ月の条件で一ヶ月の給料は四八、〇〇〇円(ほかに交通費二、四〇〇円)の支給をうけている。したがつて通年での収入月額は

48,000円×(9/12) = 36,000円となる。

なお、申立人は長女、二女分の児童扶養手当として市から月額三六、一〇〇円の支給をうけている。

そのほかに申立人は若干の預金などを有するが、これらはいずれも生活資本であつて日常の生活費に算入されるべきものではない。

以上で不足する分を申立人は父の年金に依存して生活していることになる。

2  (1) 相手方は現在福島市内で土井トキの経営するスナック喫茶「○○○○○○」の従業員として勤務し昭和五六年度においては月額一四五、〇〇〇円の給料を受取り肩書住所で右土井トキおよびその娘洋子と同居しておりその他の同居家族はない。

相手方にはこのほか所有する資産はない。

相手方はこの受取つた給料の中から所得税月額六、七〇〇円の控除をうけた後、その他の租税公課として市県民税年額一三、六〇〇円(したがつて月額換算すると一、一三三円―円以下四捨五入、以下同様)、国民健康保険税年額四三、六〇〇円(月額換算三、六三三円)国民健康保険料年額五二、七〇〇円(月額換算四、三九二円)、国民年金保険料月額四、五〇〇円の支払をしなければならない。したがつて上記月給一四五、〇〇〇円からこれらの公租公課を除外した後の手取額は一二四、六四二円となる。

(2) 相手方はこのほか前記(株)○○○○○の倒産に際し、その連帯保証人として多額の債務を負担し、その返済に当らなければならなくなつたが、その現在の残存額は○○○○○○○○支店に一〇〇万円、○○○○○○○○○に二口元利合計一五、八一九、二〇二円がある。

そしてこれらの債務についての支払方法は○○○○○○分については昭和五四年四月より同六一年三月まで毎月六万円に分割して支払うが相手方はうち半額の三万円を負担すること、また後者○○○○○○○○○に対しては二口併せ昭和五四年五月より同五七年五月まで毎月一〇万円ずつ、同年六月より同六二年一二月まで毎月二〇万円ずつをいずれも分割で支払うことになつている。

(3) したがつて相手方の借金返済額は現在では自己の給料取得分をはるかに上廻つており、現実には前記土井洋子の生活扶助を受けている状態にある。(借金返済の不足分も同女かまた前記土井トキが支払つているものと推測される。)

(三)1  しかしながら一般に返済すべき債務が自己の収入を超えることは、その者をして自己の配偶者に対する生活扶助義務、未成年子に対する監護養育義務、その他の家族員に対する扶養義務を免がれしめるものではないことはいうまでもない。

そこで債務者が負担する第三債権者に対する債務と家族員に対する生活保持義務が抵触する場合については、その債務者の収入が給料その他の債権にもとづくものであるときには、民事執行法一五二条によつてその四分の三に相当する部分は第三債権者が差押えることは禁止されておりその法意からすれば右四分の三に相当する金額は債務者がこれを自己およびその家族員の生活保持に優先的に充当することを容認しているものということができる。

2  それゆえ相手方は前記(二)2(2)記述のとおりの第三債権者に対する多額の負債があるけれど、それを理由に申立人に対する婚姻費用の分担を拒む理由とはなしえず、前項のとおりその給料手取り額の四分の三を申立人を含む自己の家族員の生活保持に充当すべき義務があるといわなければならない。したがつて相手方の生活費負担の基準額は

124,642円×3/4 = 93,486円となる。

3  申立人の月収三六、〇〇〇円と相手方の月収九三、四八六円を申立人と相手方の夫婦共同体の収入とみて、これを労働科学研究所の生活費算定方式によつて配分算定すると、

(1)  まず同研究所の方式にしたがつて、生活単位を申立人は主婦(八〇)と既婚女子軽作業(九〇)の中間とみて八五とし、相手方を既婚男子中等作業とみて一〇五、なお相手方には別居独立世帯として二〇を加算することとし計一二五とする。長女、二女それぞれ八〇とする。

(2)  申立人、長女、二女の生活費

(36,000円+93,486円)×85+80+80/125+85+80+80 = 85,741円

(3)  相手方の生活費

(36,000円+93,486円)×125/125+85+80+80 = 43,745円

(4)  そこで申立人はうち三六、〇〇〇円の月収があるのでこれを控除して一ヶ月四九、七四一円の割合で相手方から婚姻費用として受取る権利を有することになる。

85,741円-36,000円 = 49,741円

4  したがつて相手方は申立人に対し婚姻費用として申立人が本件申立をなした昭和五七年八月分は一二日以降を日割計算して三〇、四八六円同年九月からは一ヶ月四九、七四一円の

49,741円×(31-12)/31 = 30,486円

の割合の金員をその月末日限り支払う義務があることになる。

(家事審判官 福島重雄)

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